第8章 夜の庭の迷子
あ、やば、すっごい寝ちゃってた……!
今の絵、今夜じゅうには背景とモチーフの色、ざっくり塗らないとなのに。それで、明日一日乾燥させないと予定が狂う。いつもよりも倍くらい大きいし……魔法で乾燥させるのも大掛かりになってしまいそう。
寮内ならば外出自体は許可されているが、消灯時間のほうはとっくに過ぎていた。でも、しかたない。
シシィは画材を持って、窓の月明かりに照らされた階段をできるだけ静かに降り、女子寮の庭に出た。少し開けたところで画材を広げ始める。
本来は部屋でやりたいところだが、今回は色々な画材を派手に使う。室内だと床や壁がどうしても危ないのだ。
うーん、お茶とお菓子、持ってきて正解。
切羽詰まっているものの作業は順調。一休みにあったかいお茶を啜る。
これ、ちょっとピクニックっぽいかも。
そんなことを思いながら少し離れて絵を眺めていた時だった。
「おおおお…!!!」
「へっ? な?!」
びっくりして声の方を見ると。
シシィの腰よりも背の低い小さな女の子が、描きかけの絵を覗き込んでいた。
「これ、お前がつくった?!」
何の種族だろうか。かなり人間種に近い姿だが尻尾がある。髪も桃色の羽毛でふわふわしていて、変わったデザインの民族風のワンピースを着ている。
「え? そ、そうだけど……っ?!」
「やるなー」
「あ、ありがと……って、じゃなくて! どこからきたの……?!」
◇◇◇
「はいはいはいはいどうしたー?」
女子寮の管理人の一人、夜間担当のフーネットさんは、シシィが呼び鈴を鳴らすとわりとすぐに管理棟から出てきてくれた。
「なに? あ、絨毯に絵の具ぶちまけた?」
前科はある。
「ち、違います! 作業してたら……その!」
え? とフーネットさんが視線を落とすと、足元には大学の寮にはいるはずもない、小さな人影が跳ねていた。