第16章 獣化編
やがて森の少し歩いたところに、泉を発見する。
数メートルほどの高さから滝が落ちてきて、その水流も周りの幻想的な草花も、一目見て心が奪われた。
「わああー、綺麗なとこだ~! 見てみてルドガー、水も透き通って綺麗だよ、ここ最高だねえ」
「本当だな。まるで絵本の中みたいだ。セヴァ、お前はよくここでメスを口説いているのか?」
普通に疑問を聞いてきたルドガーに、セヴァはゴホゴホとせき込む。
「そんなわけないだろう。ただ二人に見せたかっただけだよ、この季節はとくに美しいからな」
気を取り直し、彼は真面目な顔で理由を話す。
もうルドガーとあなたは、新しい場所を見つけた喜びで、仲良く水際で遊んでいた。
「ふふふっ、たのしー! ぱしゃぱしゃできるよ!」
「ははっ、こっちにかけすぎだぞ。……あっ、おい、足元に気をつけろ」
景色にはしゃいだあなたは、少し彼から離れたところで手を水にもぐらせ、両手で跳ねさせていた。
すると靴が後ろの小石に当たり、背後によろけそうになった。
「わああ」
やばい、転んでしまう――
そう思ったとき、ルドガーはすぐに駆けだして自分が下敷きになってでもあなたを助けようとした。
だが実際は、近くにいたセヴァがとっさに腕を伸ばし、あなたの腰付近をそっと支えて抱き起こした。
「す、すみません~はしゃぎすぎちゃった」
「大丈夫かい? 怪我はないかな」
まさに紳士的に声をかけ、微笑んだセヴァに、あなたは頭をかきながら自分のドジを反省する。
たったそれだけの出来事だったが、二人の対面で獣のルドガーは、その場に立ち尽くしていた。
小柄なあなたの体格を軽々と支える、長い手足と逞しい体躯。
今は彼が持っていないものだ。
「…………」
自分の獣の体を見下ろし、悔しい気持ちがわいてきた。
だがルドガーはじっと我慢し、決意をする。
もうすぐだ。
もうすぐあなたの小さな肩を、この腕で支えられる。
そしてやっと、この両腕で抱きしめられる。
そう信じて、ルドガーは耐え忍んでいた。