第16章 獣化編
さっそく獣と人間の二人きりの生活が始まる。
彼は毛が生え変わる期間、様々な変化をするらしい。
体はエネルギーを必要とし、普段の何倍も食事をするようだ。
だが今日はあなたが到着する前にこの森で狩りをしたらしく、また明日行くと言っていた。
「ねえねえ、それに眠気もあるの? ルドガー、すごいあくびしてるね」
「ああ……そうだ。よく食べてよく寝るからな。……どうだ、魚うまいか?」
「うん、美味しい!」
まるで数か月前の小屋暮らしを思い出す。
あのときも彼が獲って来てくれた肉や魚を、あなたが調理して一緒に味わっていた。
ただひとつの違いは彼の姿だが、ルドガーはルドガーだと思った。
食事中も椅子に座るあなたと、そばで行儀よく腰を下ろしている彼。
だんだんと姿も見慣れてきて、あなたは自分でも驚くほど順応していた。
夕食後、薪をくべた暖炉の前で、二人でセヴァからの贈り物の箱を開けた。
「ん? なにこれ、すっごく大きなブラシだよ。どうするの?」
「……えっ? ああ、それか。そんなもの使わなくてもいい」
彼は呆れの混じった興味のなさそうな顔で見下ろしている。
だがあなたはすぐに思いついた。
これは彼の体にあてて、毛をとくものなのだと。
「ふっ。あいつは同じ獣だからな。余計な気をつかったんだろう。だが俺はそんな男らしくないものいらん」
「お、男らしくないって、そういう問題? ……使ってみたーいっ」
「あっ! やめろ!」
油断している彼に、あなたはブラシを両手で持って優しく動かした。
するとたくさん毛が絡まり、するすると落ちていく。
「わあ、すっごい取れる。これいいね、気持ちいいでしょう?」
「……う……別に……そんなことは……」
低い彼の声が絶妙に悶えている感じがする。
あなたが熱心に繰り返していると、ルドガーはやがて諦め、その場にぐったりとしていた。
「もういいか……気が済んだだろう」
「まだだめだよ。残ってるし。もうちょっとだけ」
そうお願いしてやがて役目を終え、あなたは集まった青い毛に目をキラキラさせる。すごい達成感だ。
「こんなの本物のオスではない……俺は番の愛に敗北しただけだ」
「なによそれ、別に悪くないでしょう? ……ふふっ、そうだよ、私の愛情だよ」
二人の親密なやり取りは、暖炉の火のように互いの心を温かくしていた。
