第16章 獣化編
「そっか……びっくりしたよね。……でもよかったよ。あなたが無事で」
「ああ……ちゃんと帰ってきたぞ。……だが、問題があるんだ。部屋にもこのままじゃ入れない」
そういえば、さっき彼が「この姿から戻れない」と言っていた。
話を聞くと、魔力を体に巡らせ、毛の生え代わりを安定させるために、換毛期の時期はずっと獣化していなければならないそうだ。
その長さは、二週間以上にも及ぶらしかった。
「え! じゃあルドガー、どこにいるの? 騎士団って人化してないと歩いたりできないんだよね」
「そうだ。だから俺は毎年、ゼイラン様に特別休暇を与えられて森へこもるんだ。それが終わればまた戻ってくる」
衝撃の事実にあなたは愕然とし、胸騒ぎがまたぶり返した。
「え、でもまさか一人で行かないよね? 行っちゃやだよ!」
「……し、しかし、俺はその間人化が出来ない。こんな姿で過ごしても、お前はつまらないだろう?」
くーんと鳴きそうな瞳で見つめられ、心がしめつけられる。
「つまらないわけないでしょう、私はあなたの番なんだよ。どんな姿だって一緒にいるもん。一人で行くなんて絶対ダメだからね」
自分の体が何人分も入ってしまいそうな広い体躯に、あなたは掴まって離れないようにする。
「…………っ! ……だが本当に、いいのか? お前を抱きしめたりすることも出来ないんだぞ」
「ふふ、それは少し寂しいけど、私が抱きしめてあげるから大丈夫だよ。ね?」
笑顔で伝えると、獣の彼もだんだんと力が抜けるように、表情が和らいだ気がした。
そんな二人の心温まる姿を、邪魔にならない位置でマルグが明かりを照らし、待っていてくれていた。
あなたが我に返り振り向くと、彼は優しい笑みで佇んでいる。
「あっ!! お待たせしてすみません、マルグさん!」
「いえ、全然大丈夫ですよ。本当によかったです。……あの、ではどうしましょうか。ルドガーさん、今回はどこで過ごされますか?」
「そうだな……俺がいつも行く魔界の森は、を連れていくには危険すぎる。……ゼイラン軍の部隊長のセヴァに頼んで、休暇用の別荘を借りるか。……すまん、マルグ。彼に連絡を取ってくれるか?」
ルドガーからほぼ初めて頼られ、従者のマルグは顔を一段と明るく輝かせた。