第16章 獣化編
どうしよう、大切な彼に何か起こったのかもしれない。
涙ぐみながら、あなたはそのまま寮舎の外に出た。裏側にまわり、さっきまでバルコニーから見下ろしていた芝生に出る。
広々としたそこは真っ暗闇で、マルグが明かりを持って近づくと、信じがたいものを映し出した。
黒くキラキラと輝く長毛が、荘厳とした筋肉質な体躯を包んでいる。
凛々しい黒角とともに三角の獣耳がピンと立ち、こちらをじっと大型の獣が見つめていた。
「え…………ルドガー……なのっ!?」
あなたはなぜ獣姿の彼がここにいるのか混乱したが、とにかく彼に飛びつき、一生懸命大きな体を触って確かめようとした。
「どうしたの! 任務で獣になったの!? 怪我したとかっ? 大丈夫なの!?」
手探りで深く潜るように毛の中を触るが、恐ろしいことが起きた。
自分の小さな手のひらに、ごっそりと深青の毛の塊があったのだ。
「ああああっ! 毛が取れちゃったよ、ごめんっ!!」
そんなに弱っているのだと、あなたは完全に青ざめて騒ぎ出す。
すると近くで金色の暗く丸い瞳に見つめられた。
まつげが長い神秘的な姿だが、どこか寂し気だ。
「……。それは俺の毛だ。落ち着け、病気じゃない」
大きな獣からルドガーの声が聞こえてきて、一気に安堵する。
だが彼は続けてこんなことを明かした。
「すまん。この姿から戻れないんだ」
「……どうして!?」
「これから毛がたくさん抜ける。獣の毛が生え変わる、換毛期に入ってしまった」
くっ、と無念な感じに述べられ、あなたはぱっちりと目を開けたままになった。
それは予想外の言葉だった。
手に掴んだ上質な絹糸のような獣毛を見下ろし、じわじわと胸を撫で下ろしていく。
「な、なんだ……そうだったの。ごめん、全然知らなくて。これって、普通? よくあることなの?」
動物の生態に詳しくないあなたは、彼に落ち着いて尋ねる。
「ああ、一年に一回こうなる。普段はもうすぐかと察知するんだが、今年は急に来てしまった。今日は任務で獣化していてな。暴れると抜け始めたから、気づいたんだ」
大きな頭を垂らし、狼に似た細い鼻先を悔いるように擦りつけてくる。
あなたは瞳を柔らかくして、彼の鼻筋に優しく触れた。