第16章 獣化編
彼の変化はもうひとつあり、ある日出発する前にこんなことを言った。
「今日は討伐任務があってな、帰るのはきっと遅くなるはずだ。先に寝ていていいからな」
「そうなの? わかったよ、でも気をつけてね」
そう言われてぎゅっとハグをする。
今までは任務のことはなるべく秘密にしていた彼だが、あなたにも教えてくれるようになった。
彼が強いといっても心配は残るけれど、毎日ちゃんと帰ってくるし、そんな日々の経験があなたの心も強くしていた。
だが、その日は異変が起きた。
日付が変わってもルドガーは帰宅せず、少しだけ不安がつのる。
彼は軍人で、主人のゼイランも前に「命を脅かすほどの強敵はしばらく現れていない」と言っていた。
騎士団ではそもそも皆強い魔族の精鋭たちが一緒なのだから、問題はないだろうけれど。
「うーん、うーん。……寝れないや……」
広いベッドで何度も寝返りをうち、寝間着姿のあなたは起き上がってガウンを羽織った。
寮は静かだが他の騎士も住んでいるため、怖くはない。
でもあなたはひとりでにルドガーの姿を探した。
濃い紫がかった闇夜のバルコニーに出て、冷たい息を吐く。
こんな寒い夜に、ルドガーは戦っているのかな。
しんみりとして、ちょうど建物の下に広がる手入れの行き届いた芝生を見つめた。
するとそこに、普通あるはずのない黒い物体の影が見えた。
「ん……? なにあれ……」
疲れ目をこらすと、大きな塊はじっとそこに座っていて、ピンと三角の耳みたいなものが立っている。
その時だった。
いきなり部屋のドアをドンドン!と強く叩かれたのは。
あなたは心臓が止まりそうになり、急いで踵を返して玄関へ向かう。
思い出したのは自分の病気の休暇中のときに、騎士がやってきてルドガーに任務要請をした時のことだ。
それよりも強く叩く音に聞こえた。
「は、はい、どうしたんですか。まさかルドガーになにか……っ」
「さん、大変です! 来てください!」
前のめりに立っていたのは従者のマルグだ。
あなたはガウン姿で、わけがわからぬままついていった。