第12章 赤兎編
「まだそんなこと決めないで。急いで結論出さなくていいよ。喧嘩してほしくないの。あなたに傷ついてほしくない」
「俺は絶対にこんなやつに負けない。信じろ、」
「信じてるよ、でもね……」
あなた達が人前で見つめ合っていると、セロがゆっくり手をあげた。
「あのさ、お前、ルドガー。たぶんこいつに勝つから、ほんとやめてほしい。こんなんでも俺の用心棒なんだ。殺られたら俺が困る。頼む許してくれ。……ほらナザル、お前も一緒にルドガーさんに頭さげやがれ!」
「……いってえな何すんだよてめえ! お前それでも俺の主人かっ? なっさけねえこと言うんじゃねえよ!」
二人の空気が険悪になり、あなたはおろおろした。
「黙れ淫乱獣! あの男をよく見てみろ、あいつは軍の教育を受けた筋金入りの殺戮獣だぞ、野生児のお前とは違うんだよ! ぜってえ負けるから! 幻想は捨てろ!」
「うっせえ非力な魔術師が! 俺は幻獣だぞ、負けるわけねえだろ! お前がいつも弱気だから俺までこんな位置に下がっちまってんだよ、自覚持てこの野郎!」
「……ま、まあまあ、喧嘩しないで、セロさん、ナザルさん」
こうして素の姿を見てみると、憎めない二人組だと思ったが、ルドガーとゼイランとはかなり異なる関係だ。
赤髪の獣、ナザルはソファにどすっと背を預ける。
小うるさい主人に疲れ切った様子だ。
彼は我関せずといったふうに静観しているルドガーのことを、不快そうに睨みつけた。
これまでとは違い、怒りが混じっているようだ。
「お前はいいよな……強者の主に、可愛い彼女までもらってよ……どんだけ幸運なんだよ。俺なんか、これだぞ? 憐れだと思わねえか」
ルドガーはその台詞に、一瞬だけ眉をひそめた。
相手の素性を探るようにじろりと見返し、やがて頷く。
「ああ。思うな」
「……こんの、クソ軍人が……ッ」
ナザルはこめかみに青筋を立てて苛立っていたが、隣のセロの「これって俺のこと? もの扱いしたの今?」という緊張を壊す発言により、脱力していく。
彼はだらりとソファにもたれ、疲れたようだった。
「もういいわ……登場に力を使いすぎた。せっかく久々のタイプの女の前で格好つけたかったのによ……」
もう一人の獣のつぶやきは、彼の本心からくるものだ。
こうして混沌とした仲間同士の顔合わせは、ひとまず幕を閉じる。
