第12章 赤兎編
「……貴、様ァ…ッ! やっぱり俺の本能は正しかったんだッ!」
彼が叫ぶと、赤髪の男はゆらゆらと近づいてくる。
黒い煙をまとい、それは魔族に近い雰囲気だった。
「なにがだよ、堅物野郎。おい知ってるか? お前恋愛経験少なそうだから俺が教えてやるよ。番ってな、乗り換えられるんだぜ? もっといいオスにな。……はっはっはっはッ!」
高らかに笑った男は、ルドガーの憤怒を煮えたぎらせる。
彼は顔に血管を浮き上がらせて金の瞳の瞳孔を開き、突進した。
「や、やめてええ! 二人とも落ち着いてええ!」
間にいる本人の情けない声がこだまするが、もう絶体絶命だった。
頭がついていかなくても分かる、最悪の事態だと。
ルドガーが赤髪の男の肩を掴もうとしたとき、臨戦態勢の男は、挑発的だった表情を突然ゆがませる。
太い首にはめられていた黒い首輪が、ぐうっとしめつけたように。
「ぐ、ぁッ、てめ、なんだこれ、はずせッ」
ルドガーは手を止めて、困惑に陥った。
後方のミザロに気づき、彼まで声を張り上げる。
「止めるな、俺に殺らせろッ」
「だめですよ。私の部屋を荒らさないでください。困った方たちですね…」
彼はいつの間にかあなたの隣にいた。
予め防御魔法を張っていて、その中から言葉を紡いでいる。
「師匠……あの人って……」
「正体は分かりませんが、人化した獣です。セロさんの仲間でしょうね。十中八九、兎などではないですよ」
あなたは師の言葉に身震いする。
よく分からないが、とにかく騙されていたのだと。
あの魔術師とこの獣の二人組に。
赤髪は膝をつき額を押さえている。
ルドガーはそれを間近で見下ろし、握った拳の行き場がなくなり悔しそうだ。
二人の巨体が落ち着いたので、あなたは解かれた防御魔法から歩み出した。