第8章 【最終章】未来の先、変わらないもの
夢主side
別れるつもりはない。
その気持ちは確か。
だけど、今、この時間が有限なのも確かだ。
遠距離になってしまえばなおのこと
今のようなゆっくりとした時間が取れなくなる。
——先日の監督からの提案を飲めば、もっと……。
だからせめて、卒業までに一つくらい、
恋人らしい思い出が作れないか——。
そんな事を頭によぎらせていたら
気がつくと、もう家の前に着いていた。
「今日も送ってくれてありがとう」
そう言って私がいつも通り手を離そうとすると、
一也がそれを拒んだ。
「……一也?」
私が少し怯んでいると
次の瞬間
「……なぁ、今度デートしねぇか?」
ふいに一也から聞きなれない言葉が飛んできて、
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「でーと…って、あの、恋人がするやつ?」
私は急な発言にわけのわからない言葉を返した。
「行かねぇならいいよ」
「ちがっ、……行く!行くよ!!」
少し不貞腐れたような声をする一也に
私は慌てて口を開いた。
「明日、空いてるか?」
「うん」
「なら、9時くらいに迎えに来る」
「……わかった」
私がそう返すと一也は
繋いだままの私の手の甲を自分の口に近づけた。
そして、そのままキスをした。
一瞬の事に何が起きたのか分からなかった。
しかし、
「寝坊すんなよ?」
一也のその言葉にハッとして
「しないよ!じゃあね!」
そう言って慌てて家の中に駆け込んだ。
そして扉を閉めた瞬間、背中を預けてその場にしゃがみ込んだ。
——手の甲、まだ熱い。
さっき触れた唇の感触が、頭から離れない。
普通にしてたつもりなのに、
全然普通じゃいられてないのは私の方だ。
「……なにあれ」
小さく呟いても、心臓の音は全然落ち着かない。
寝坊すんなよ、なんて言ってたくせに。
あの人のせいで、絶対に眠れない。