第7章 【第4章】選ばなかった未来_時間
「国友監督」
私は小声で監督に声をかけた。
「成宮くんって昨日の今日でフォーム変えるなんて事ありますか?」
私がそう聞くと、一瞬だけスコアブックに視線を移した国友監督。
少しの間のあと、監督は口を開いた。
「……調子の良し悪しは個々の判断に任せている」
肯定も否定もしない返事。
私は監督の横顔を見た。
しかし、その表情からは何も読み取れない。
「そう、ですか」
それ以上は聞かなかった。
監督が答えないのなら、
答えない理由がある。
私は再びグラウンドへ視線を戻した。
一也のリードも遠慮がなくなり、鳴らしさが出てるピッチングになってる。
本当にフォームを変えたのか、
それとも——。
「スリーアウト!チェンジ」
審判の声に私はペンを置いた。
「攻撃に入る前に少し話が……」
再び監督に声をかけると、
守備から戻ってきた選手達も自然と足を止めた。
今までの打席は無駄じゃない。
「相手ピッチャー、球速はあるけど鳴の方がスライダーのキレは上だと思う」
数人の選手が頷く。
実際、空振りの数も見逃し方も違っていた。
「あと、多分だけど――」
私はスコアブックへ視線を落とした。
「相手のキャッチャー、初球は様子見の球を使うことが多い」
「一打席目だけじゃなくて?」
私の言葉に一也が鋭くつっこんだ。
キャッチャーなら不思議に思うよね……。
私も自信がない。
でも……
「うん。ストライクを取りに来る時もあるけど、まずは打者の反応を見てる感じ」
「だからかも知らないけど、甘めに逃げる球が多いの」
「ココもだし、ココも……」
私はスコアブックを指差しながら説明した。
「一打席目だけなら偶然かもしれない。でも二打席目以降も似たような配球が何回かある」
「特に右打者には外、左打者には内から入ることが多いかな」
選手達が覗き込むようにスコアブックへ視線を落とした。
「なるほどな……」
一也が小さく呟く。
「反応を見てから組み立てるタイプか」
「多分」
私は頷いた。
一瞬だけ静寂が落ちる。
そして、
「面白ぇじゃん」
最初に笑ったのはカルロスくんだった。