第48章 【第四十三話】崩れゆくホーム
医療棟の廊下。
ティファは壁へ背を預け、静かに息を吐いていた。
黒く縁取られた白い上衣の胸元が、浅い呼吸に合わせて僅かに上下する。長い銀髪は、背中で一本の三つ編みにまとめていた。
廊下の突き当たりにある窓辺から、病室へ戻る途中だった。
閉め切られた部屋の空気が、少しだけ息苦しかった。ほんの数分でいいから、外の匂いがする場所にいたかっただけだ。
脇腹は、まだ熱を持って痛んでいた。
そっと押さえた指先が、腰に巻いた幅広の黒い帯へ触れる。無理をすれば、また傷が開く。
それでも、人けのない廊下を歩いていると、呼吸が少しだけ楽になる気がした。
その時だった。
――ジジッ。
館内放送が、ノイズ混じりに鳴り響く。
『エクソシスト及び本部内全団員へ。第五研究室にアクマ出現』
ティファの呼吸が止まった。
『現在、エクソシスト二名が応戦中』
二名。
誰が戦っているのかまでは、告げられなかった。
なぜだか、真っ先にアレンの顔が浮かんだ。
『元帥及び以下のエクソシストは至急、方舟三番ゲートのある間へ』
一拍置いて、招集される者の名が続く。
『ノイズ・マリ。ミランダ・ロットー』
ティファの名は呼ばれなかった。
当然だ。
今の身体では、戦力に数えられるはずがない。
放送が途切れ、警報だけが廊下を満たしていた。