第47章 【第四十二話】『私』として、ここに
Side:ティファ
――ちゃんと、戻れたのだろうか。
目を開けるより先に、それを思った。
薬品の匂い。
遠くで行き交う足音と、抑えられた話し声。
私は重い瞼を、ゆっくりと持ち上げた。
白い天井が、淡く滲んでいる。
ぼやけた視界の中で、医療灯の光が揺らいでいた。
どれほど眠っていたのか分からない。
身体の感覚は曖昧で、指先を動かそうとしただけで、全身へ鈍い痛みが広がった。
特に、脇腹。
息を吸った途端、鋭い痛みが突き上がり、思わず眉を寄せる。
「……っ」
掠れた吐息が漏れた。
それだけで、喉の奥が焼けるように痛んだ。
声が出ない。
いや、音にはなる。
けれど、無理に言葉へ変えようとすれば、裂けた傷を内側から擦られるような痛みが走る。
視界の端で、人影が動いた。
「……ティファ?」
聞き慣れた声だった。
その声を聞いた瞬間、意識が急速に現実へ引き戻される。
顔を向けた。
ベッドのすぐ横の椅子に、ラビが座っていた。
片目を覆う眼帯。
乱れた赤毛。
肩と腕には包帯が巻かれ、頬にも新しい傷が残っている。
明らかに安静にしていなければならない状態なのに、彼は身を乗り出すようにこちらを見ていた。
まるで、ずっとこの瞬間を待っていたみたいに。
椅子の足元には、読みかけの本が一冊、伏せて置かれている。
栞の代わりに、包帯の切れ端が挟まっていた。
「……ラ、ビ……」
名前を呼んだだけで、喉に激痛が走る。
それでも、呼ばずにはいられなかった。
ラビがいる。
傷だらけでも、ちゃんと生きている。
私の刃で傷つけてしまった彼が、今、目の前にいる。
その事実を理解した瞬間、胸の奥で張り詰めていたものが崩れた。
視界が、じわりと滲んでいく。
「……おい」
ラビの顔に、一気に焦りが浮かんだ。
「何で泣くんさ。痛ぇのか? 苦しい? 医療班呼ぶか?」
首を横へ振る。
それだけで脇腹に痛みが走った。
痛みに耐えながら、震える唇を動かした。