第45章 【第四十話】この世界に縫い止めるもの
その声は、怒りを押さえきれないように震えていた。
けれど同時に、何かを必死に堪えているようでもあった。
「優しくて。無茶ばっかして。自分のことは後回しで。変なところで頑固で……」
ラビの手が、ティファの手首へ伸びる。
触れる寸前で一度だけ止まり、それでも、逃がさないように強く掴んだ。
「ちゃんと怖がって、泣いて、迷って……誰かを特別に思ってる」
声が、崩れる。
「オレは……そんなティファがいいんだよ」
ティファの呼吸が止まった。
「“聖女”じゃなくていい」
ラビの目が、僅かに赤い。
「救えねぇ奴がいたっていい。誰か一人を選んだっていい」
握られた手首から、彼の体温が伝わる。
「血が言わせたとか、役目だからとか、そんなもん知らねぇよ」
ティファの瞳が、大きく揺れた。
ラビは、真っ直ぐティファだけを見ていた。
「今、怖ぇって泣いてるのは誰だよ」
掠れた声。
「オレを傷つけたくねぇって震えてんのは誰だよ」
握る手に、少しだけ力がこもる。
「オレの名前呼んでるのは……お前だろ」
涙が落ちる。
「オレは……“ティファ”がいいんだよ……!」
その声が、胸の奥へ深く落ちた。
瞬間。
手放しかけていた感情が、一気に溢れ返る。
怖い。
消えたくない。
皆の傍にいたい。
アレンを守りたい。
リナリーと笑いたい。
神田とまた言葉を交わしたい。
そして。
ラビを、失いたくない。
誰よりも特別に思っている。
その感情を、間違いだと言われたくない。
血のせいだと、役目のせいだと、否定されたくない。
「……私……」
涙が、次々と溢れた。
「私、は……」
消されかけていた自分へ、ようやく手を伸ばした。
その瞬間。
どくん――ッ!!
『ニルヴァーナ』が、今までにないほど激しく脈打った。
計測器が、一斉に警告音を鳴らす。
ティファの喉元から、白銀の光が迸った。
まるで、取り戻しかけた彼女自身を拒むように。