第45章 【第四十話】この世界に縫い止めるもの
医療棟・隔離処置室。
白い壁の上を、緊急封鎖術式の光が淡く走っていた。
廊下での異変から、まだ幾らも時間は経っていない。
ファインダーたちへの精神干渉が確認された直後、ティファは医療班によってこの部屋へ運び込まれた。
部屋そのものを囲むように、幾重もの結界が張られている。
ティファの歌が再び暴走した場合、その影響を医療棟の外へ漏らさないための封鎖結界だった。
寝台の周囲には、科学班の計測器が並べられている。硝子管の内部で、淡い光が脈打っている。
ティファの喉元へ伸びた導線の先で、記録針が紙面を引っ掻いていた。
波形は、まだ落ち着かない。
本来なら、処置室へ残れるのは医療班と科学班の一部だけのはずだった。
けれど、ラビは部屋を出ようとしなかった。
アレンも、リナリーも。
神田に至っては、退出を促した医療班員を一度睨んだだけで、壁際から動かなかった。
コムイはしばらく黙って彼らを見たあと、低く告げた。
「異常が起きたら、僕の指示で即座に下がること。ここに残る以上、それだけは守って」
誰も返事をしなかった。
けれど、誰一人としてティファから目を逸らさなかった。
「精神波形、まだ下がりません……!」
ジョニーの声が、僅かに裏返った。
「干渉を受けたファインダーたちは少しずつ意識を取り戻しています。でも、ティファの方は……適合率が、まだ上がり続けています!」
「暴走後に上昇だと……?」
リーバーが計測器へ身を屈め、険しい顔で数値を睨みつける。
「外へ放出して終わったわけじゃねぇ。力が、本人の内側でまだ動いてやがる……」
その声を、ティファは遠くに聞いていた。
寝台の上で、背を支えられるように座っている。喉には、薄い包帯が巻かれ、方舟で受けた損傷の痛みもまだ残っている。
声を出せるようになったばかりの喉は、先ほど廊下で無理に歌ったせいで、また焼けるように熱を持っていた。
それでも、身体の痛みより鮮明に残っているものがあった。