第44章 【第三十九話】優しい歌の檻
「散れ」
低い声が、冷たく落ちた。
神田だった。
鋭い視線が、集まりかけた人影を薙ぐ。
「見世物じゃねぇ」
野次馬たちが息を呑み、反射的に足を止める。
神田はそのままティファとラビの前へ立つように位置を変え、それ以上誰も近づけないように廊下を塞いだ。
「医療班を呼んでくる!」
リナリーが、弾かれたように駆け出す。
アレンもすぐ、跪いたままのファインダーたちへ向き直った。
「皆さん、聞こえますか? ゆっくり呼吸をしてください……!」
ファインダーたちは、ぼんやりとアレンを見る。
まだ、その表情には不自然な穏やかさが残っている。
ティファは、その姿を見て再び身体を震わせた。
「見なくていい」
ラビの声が、すぐ近くで落ちる。
ティファの肩が揺れる。
「でも……」
震える声。
「私が……」
「今は見なくていい」
もう一度。
今度は、少し強く。
ティファの視界が、ラビの団服に遮られる。
抱き込むように支えられ、跪く人々の姿が見えなくなる。
その向こうで、誰かが小さく息を呑んだ。
やがて一人が、はっと我に返ったように顔を上げる。
自分が廊下の床に膝をついていることに気づいたのか、みるみるうちに顔色を失っていく。
「……俺、何を……」
震えた声。
その声に釣られるように、他のファインダーたちも次々と瞬きをした。
穏やかだった表情が、少しずつ崩れていく。
安堵の余韻が消えた後に残ったのは、何をされたのか分からないという戸惑いと、遅れて戻ってきた恐怖だった。
ティファは、それを見てしまいそうになった。
けれど、ラビの腕が少しだけ強くなる。
「見るな」
視界が、黒い団服で塞がれる。
喉元の熱は、まだ消えていなかった。
どくん。
『ニルヴァーナ』が、まだ脈打っている。
歌は止まったはずなのに。
まるで、まだ何も終わっていないと告げるように。
ティファは、ラビの服を握ったまま、息を呑んだ。
その鼓動が、次に何を求めるのか。
考えることさえ、怖かった。