第44章 【第三十九話】優しい歌の檻
静養室へ移されてから、ティファはベッドに座り、ぼんやりと外を見ていた。
夕方だった。
傾き始めた西日が、白いシーツと石造りの壁を淡く染めている。
喉の痛みは、少しだけ引いていた。
けれど、声はまだ出ない。
無理に息を震わせようとすれば、焼けた傷を内側から引き裂かれるような痛みが走る。
だから今は、声を出すことをやめていた。
焦っても、治りが遅くなるだけだと分かったから。
言葉にしたいことは、たくさんあるのに。
コンコン、と控えめなノック音がした。
ティファが振り返る。
返事を待つような短い間のあと、扉が勢いよく開いた。
「ティファ!」
聞き慣れた声。
ラビだった。
その姿を見た瞬間、ティファの胸の奥で、何かがことりと音を立てた。
生きている。
動いて、笑って、いつもの声で名前を呼んでいる。
分かっていたはずなのに、実際に目にするまで、本当の意味では呑み込めていなかったのだと、その時初めて気づいた。
額にも腕にも包帯が残り、団服の上からでも傷の多さが分かる。それでも、彼はいつもと変わらないような笑みを浮かべていた。
「やっと会えたさ。ったく、医療班が全然通してくんなくてさぁ。オレ、廊下で何回追い返されたと思う?」
軽口を叩きながら、部屋へ入ってくる。
その後ろから、アレンとリナリーも顔を覗かせた。
「ティファ」
アレンが、ほっと息を吐くように微笑んだ。
「顔色、前よりずっと良くなりましたね」
リナリーも嬉しそうに頷く。
「本当によかった。少しだけでも起きていられるようになったんだね」
ティファは小さく笑おうとした。
けれど、うまくいかない。
唇が僅かに動いただけだった。
その瞬間、ラビの足が止まった。
ほんの一瞬。
翠の瞳が、ティファの喉元へ落ちる。
白い包帯。
まだ浅い呼吸。
そして、返ってこない声。
けれど、ラビは何も言わなかった。
すぐにいつもの調子へ戻り、ベッド脇の椅子へどかりと腰を下ろした。