第4章 塩辛い過去
ぶん殴る代わりに思いっきり後ろに突き飛ばす。
でも、私は非力だからか甘井は軽く尻もちを着いただけ。
胸糞わりぃ。
ムカつくから甘井が見えないように寝っ転がる。
なのに、背中の後ろからは、なおも。
「それでも、ごめん…」
って聞こえてくるからさらにムカつく。
でも。
「こんな年下の子にこんなことしちゃったし…」
は?
「だって、朔、12歳とか13歳とかなんだろ?そんなんこの前まで小学生みたいなもんじゃん…」
コイツ、朝、寄ってくる女達に言ったデマカセ信じてんの!?
「今どきの小学生でもこんなに発育良くねーわ!アタシ、こう見えても今年ハタチだから!普通、見りゃわかるだろ!」
いくら私の身体が貧相だからってさすがに小学生には見間違わねーだろ。
どんだけ女に疎いんだよ。
本当、コイツ、絶対童貞だろ。
めんどくさいから布団をかぶる。
初日から疲れた。
晩ご飯食べてないけど、もう寝たい。
でも、甘井の前で寝るのはイヤだ。
まだ捕まえとかなきゃ安心できない。
甘井もベッドの横に寝せて距離を詰める。
肩を並べていると、シャワー上がりたての甘井はあったかくて、いい匂いがする。
眠気が寄ってくる。
それを邪魔しない静かな声で甘井が話しかけてくる。
ベッドでこんな声は聞いたことない。
心地良くて普通に話をしてしまう。
動画で脅そうとしていたこと。
講義期間中、連れになってほしいこと。
人が群がってくるのはイヤなこと。
甘井はちゃんと聞いてくれた。
聞いた後に
「わかった。一緒にいるだけでいいんだろ?」
って言ってくれた。
まだ脅してもいないのに。
術式も使ってないのに。
すごく簡単なことみたいに。
ただの口約束なのに、なんだかもう守ってもらったような安心感があった。
あぁ、これで明日からは大丈夫になるのかも。
そう思えた。
眠くて、涙が出そうだった。
「“甘井”、先に“寝てよ”」
すぐに目がトロンとして眠りに落ちていく甘井に何か言いたくて、でも何を言えばいいかがわからなくて、
「明日からよろしく」
ってだけ囁いた。
甘井から返事はなかったから聞こえたかどうかはわからなかった。
動かなくなった甘井を突っついて完全に寝たのを確かめてから、甘井の胸に顔を埋める。
大好きなご褒美のいい匂いに包まれて、私も眠りに落ちていった。
