第1章 甘い受難
静かな部屋に水音が響く。
自分の部屋であるはずなのに、夕陽も沈んだ薄暗い部屋は檻のようで。
いつも座っているソファは、馬乗りで背もたれに押しつけられればさながら拘束具のようだった。
馬乗りになっている人物は自分よりもかなり体格が小さいというのに突き放すことができない。
先程から、唇を合わせるなんて可愛らしいものとは程遠い、貪るように深く深く喰らうようなキスで息もままならない。
小さく可愛らしい舌が口内を撫で回り、唾液を器用に掬っては微かに喉を鳴らしてそれを飲む。
口の端からどちらのものかわからない唾液が流れ落ちる。
「やっぱり、甘い」
流れ落ちたものすら惜しいというように口元を舐めあげながらは妖艶に笑う。
少年、しかも美少年の部類に入ると思っていたが女だと知ったのは30分ほど前のこと。
そこからずっと、馬乗りで口腔を貪られている。
何故、そんなことを許しているのか?と訊かれれば。
「“甘井”、まだ“動かないで”」
これだ。
これがの術式。
彼女に名前を呼ばれれば頭の中には霞がかかり、命令されれば気付かぬうちに言うことを聞いている。
「待っ…、」
また口で口を塞がれ、会話することさえ許されない。
ただが立てる湿った音だけが頭に響き渡る。
(どうして、こんなことになったんだっけ…?)
の術式ためか、それともキスによる酸欠のためか、思考が回らない甘井凛はにされるがままぼんやりと今日のここまでに至る記憶をなぞっていた。