第2章 勘違い
やがてタクシーは森川のマンション前へ到着する。
七海が先に降り、ドアを開ける。
足元が覚束ない森川に、優しく手を差し出す。
「あ、ありがとう…」
夜の静かなマンション。
エレベーターがゆっくりと上昇する。
誰もいない廊下を進み、やがて部屋の前へ辿り着く。
「鍵を」
言われるまま鞄から鍵を取り出し、ドアを開ける。
玄関の灯りが二人を迎えた。
ソファへ優しくエスコートし、そっとほほ笑む。
「もう大丈夫ですか?」
「うん」
先ほどまでの緊張も、驚きも、嬉しさも。
全部が混ざり合って、胸の奥がじんわりと熱い。
部屋には静かな沈黙が流れる。
けれど不思議と居心地は悪くなかった。
むしろ、その沈黙さえ愛おしく思える。
やがて森川は意を決したように顔を上げた。
「……七海くん」
「はい」
返事をする七海を見つめながら、彼女の頬がみるみる赤く染まっていく。
言いたい。
けれど恥ずかしい。
それでも。
勇気を振り絞るように、そっと両腕を広げた。
「す、少しだけ……」
声が震える。
「だ、だめ……かな……」
言い終わる頃には耳まで真っ赤になっていた。
七海は一瞬だけ目を見開く。
そしてすぐに困ったように微笑んだ。
「だめなわけないでしょう」
その声はどこまでも優しかった。
次の瞬間、身体が温かな腕の中へ包まれる。
胸元に頬が触れる。
規則正しい鼓動が微かに伝わってきた。
七海の腕は力強いのに、不思議なほど安心する。
恐る恐る背中へ腕を回す。
抱き締め返すと、七海の腕に僅かに力が籠る。