第2章 勘違い
コースも終わり、食後の飲み物が運ばれてからしばらく。
店内には穏やかな音楽が流れ、窓の外では夜景が静かに瞬いていた。
食事を終えた満足感と心地よい余韻に包まれながら、
森川は向かいに座る七海へ視線を向ける。
「七海くん。」
呼び掛けると、七海はゆっくりと顔を上げた。
「はい」
「今日はありがとうね」
「こちらこそです。」
七海も穏やかに答えた。
その言葉に胸が少しだけ苦しくなる。
今なら言わなければならない気がした。
「それと…。」
言葉が続かない。
ゆっくりとグラスへ視線を落とした。
指先でグラスの脚に触れる。
冷たい感触が緊張を際立たせた。
数秒の沈黙。
意を決して、ゆっくりとグラスをテーブルへ戻す。
小さな音が静かに響いた。
「この間は、ごめんなさい」
七海の視線を感じる。
けれど顔を上げることができない。
「その……酔った勢いみたいになってしまって」
言葉にしてしまえば簡単なのに、どうしてこんなにも難しいのだろう。
視線はグラスの中に残る僅かな泡へ落ちたまま。
それでも、これだけはきちんと伝えたかった。
「でも……
好きなのは、本当…だから」
静かな声だった。
けれど、その言葉だけは驚くほどはっきりと口にできた。
グラスへ向けていた視線をゆっくりと七海へ向ける。
周囲から聞こえる物音ひとつにさえ、心臓が大きく跳ねている。