第2章 勘違い
数日後――。
土曜日の午後7時。
マンションのエントランスを出た森川は、
夜風に髪を揺らしながら辺りを見回した。
すると、路肩に停車していたグレーのBMW。
街灯の光を受けたボディは艶やかに輝き、洗練された存在感を放っている。
運転席から、紳士的な男。
「こんばんは」
聞き慣れた低い声。
「七海くん」
七海はネクタイを締め、いつものように隙のない装いをしている。
「どうぞ。」
慣れた手つきで助手席をあける。
「ありがとう…。」
スーツ姿でハンドルを握るその姿は、職場で見る時とはどこか違って見えた。
「ごめんね、待たせちゃったかな?」
「いえ、今来たところです」
「そっか」
シートベルトを装着し、ゆっくりと車を発進させる。
信号待ちで停車する。
窓の外には煌びやかなネオンが流れ、人々の笑い声が遠く聞こえた。
車内には落ち着いたジャズが小さく流れている。
「なんか…緊張してきた…。」
「ふふっ、何をそんなに緊張されているんですか」
“珍しいですね。”と七海が優しく笑いかける。
「帝都ホテル…。初めて…なんだよね。」
高級ホテル。
一般的なレストランもあるが、今日はひと味違う。
特別招待を頂いた。
そこは、富裕層の社交場として知られるレストラン。
考えるだけで緊張する。
「安心してください」
赤信号が青へ変わる。
再び車が滑らかに動き出した。
「いつものように振舞っていれば問題ありません。」