第2章 見上げる白
(何コイツ、小動物みたい)
五条は自然と口角が上がった。
「てかさ、君、何なの?こんな時間に、こんな場所で、何が悲しいかわかんないけど泣いちゃってさぁ」
五条の中ではもう既に眼には映らない小動物認定してしまったせいか口調にいつもの軽快さが戻ってしまう。
それが功を奏したのかどうかはわからないが、女は「私は…」と話しかけてはハッと口に手を当てた。
(たぶん、コイツ―――ちょろい!)
五条は机を叩いて大笑いしたいところだったが、どうにかそれを内心に留める。
たぶん少し時間をかけてそれとなく尋ねればポロッと話してくれそうな女だ。
しかし、しれっと目の前からトンズラしようとするので、五条はそうはさせないとばかりに「はい、ストーップ!」と手首を掴んだ。
不法侵入を咎めればしどろもどろになる。
見逃してほしいと懇願でもしそうな雰囲気。
「いや、ダメ。ちょっと一緒に来て。ゆっくり話も聞きたいし」
実際、呪力もなく、六眼でも追えない彼女を今ここで逃せば後から見つけ出せる自信はない。
(逃がすのはいつでもできるっしょ)
そう思って女を肩に担ぎ上げた。
(やっぱりね…)
もう一つの疑念も一瞬で確証となり、五条は更に笑みを深める。
“五条悟”の名を知っているか尋ねれば、女は「存じません」という。
呪術界では“五条悟”の名を知らない者はモグリだとまで言われていることは知っている。
やはり、こちら側の人間じゃない。
では、どちら側かということはこれから聞き出せばいい。
まだ夜中も夜中。
聞き出す時間はかなりある。
朝までに聞き出して、そこで逃がすのか高専に留めるのか、それとも処理するのかはそれからでも遅くない。
まあ、今の段階で第三の選択肢はほぼほぼないのだが。
いつまでもコイツとか君とか呼ぶのは何となくまどろっこしいので名前を尋ねれば、女は少し時間をかけて思い出したように名を口にした。
彼女の名前は刹那。
まだ何者かはわからない。
ただ、肩に柔らかくのしかかる温もりは五条に興味関心以外のもので頬を緩ませた。
しかし、数時間後、五条は刹那を連れ帰ったことを激しく後悔することとなる。