第2章 見上げる白
任務から戻った五条はしばらく上空に留まっていた。
どうしてかと問われても特にこれと言った理由もなく、強いていうなら浮かんだ満月がいつもより大きく見えた、というところだった。
煌々と輝く月明かりに照らされて今日は遠くまで見渡せる。
足元に広がる高専にも何ら異常はなく、現実離れした静けさが妙に心地良かった。
ふと、こんなに明るいのなら地面には自分の影が映っているのではないか、そんな遊び心が芽生えて視線を自分の足元遥か下の地面に向ける。
さすがに影は見えなかった。
(まぁ、そうだよねー。ん?)
視界に何か引っかかるものがある。
(あれ、なんだ?)
五条がいる場所からは米粒大くらいにしか見えないが、人の形をしているように見える。
しかし、自身の六眼には呪力どころかそこには何もないことになっている。
(いやいや、おかしいでしょ)
建物はある、でも人の形をしている何かはない。
どちらも見えているのに後者だけない。
目を凝らして見る。
見れば見るほど色白の女、なんならに向こうもこちらを見ているようにすら見える。
五条は待ち合わせの相手を見つけたとでも言うようにひらひらと手を振ってみせる。
一拍空けてから女が立ち上がり、逃げる素振りを見せた。
「え、ちょっと!」
届くはずのない声を上げて、女の進行方向を塞ぐ場所に瞬時に降りた。
降りた瞬間、女が五条の胸にぶつかり、その反作用で後ろに転んだ。
(ん?)
五条は身体に走った違和感を不思議に思い、女がぶつかった胸をさすりつつ、「君、何者?」と女に尋ねた。
(僕、今、術式解いてないよな?)
五条の周りには無下限がある。
普通なら向こうに衝撃はあっても五条自身に衝撃はない。
そのはずなのに、今この女は胸に当たったのだ。
一気に全身の毛が逆立つような感覚を覚える。
当の女は尻もちをついたまま呆けたように五条の瞳を見つめていた。
(まぁ、僕、五条悟だし)
きっと最強を前にして思考が停止しているんだろうと思い、五条も女を見る。
そして、女の目が潤んでいること、目の周りが赤らんでいること、長いまつ毛が濡れてツヤツヤ輝いていること。
女の全てを大きな満月の光が照らしている。
思わず。
「げっ!泣いてんの!?」
口から飛び出していた。