第3章 招いて赤
初めこそ五条の肩の上で身動ぎしていた刹那だったが動けないとわかると抵抗をやめた。
「あれ?もう諦めた?」
五条は刹那を担いでいない方の手で器用にスマホを操作しながら話しかける。
呪術高専東京校の学長である夜蛾にメールを送信する。
媒体に残るもので変なことは話せないから『面白いもの拾ったから夜蛾さんにも見せてあげる。起きたら連絡ちょーだい♡』なんてふざけたものだった。
「はい。全然動けないのでとりあえず自力で降りるのは諦めました」
「うん、まあ、それで正解だと思うよ」
「どこに向かっているのですか?」
刹那の声に恐怖や敵意は感じられない。
諦めたという割に諦めた色もないし戸惑いすらもない。
「僕の部屋。とりあえず朝までは」
「朝になったらどうなりますか?」
「まぁ、事と次第によるけど、うちの学長に会ってもらおうかなー。その後どうなるかはちょっとわかんない」
「そうですか」
期待でもなく落胆でもない、ただ事実として受け止めているといった刹那の返事。
五条はしばらく黙って、刹那が次に何を話し出すのか炙り出してみる。
「あの…」
目論見通り、刹那が口を開く。
五条はにんまりして「ん?なぁに?」と返事をする。
「空に浮かんで何をしていたのですか?」
「そこ気になっちゃう感じ?」
「はい、人が空に浮かんでいるところは初めて見ました」
今度は目論見外れて拍子抜けする。
「任務が終わって帰ってきたら満月だったから見てただけ。特に意味はないよ」
さらっと流せば、「そうですか」と刹那にも流された。
ただこの流れで刹那のことも聞きやすくなったのは事実だった。
「君は?あんなところで何してた?」
「私は…」
刹那は一度言葉を切ると言葉を選んだように「大切な人達の近くにいたくて」と言った。
「あんなところで?」
「はい…あの扉の先にいるはずなので…でも、そこまで行く勇気はなく…」
そうして刹那は沈んでいくように黙った。
刹那がいたのは日々入れ替わる薨星宮へと続く扉が立ち並ぶ場所である。
確か刹那も扉の前で座り込んでいたことを思い出す。
(薨星宮…もしくは忌庫か?てか、刹那は薨星宮の扉がわかるのか?)