第2章 走る悪霊
「今のは夢……? でも、あんなに、リアルだったのに……絶対におかしい……!」
すべてが幻だったかのような、完璧な原状復帰。
しかし、胸の早鐘は今も収まっておらず、あの悪霊の不快な感触が、肉体を穿たれた鈍い余韻が、これが単なる悪夢などではないと強く主張している。
まるで時間が巻き戻ったかのような、異常な空間。
引き返して部屋に閉じこもりたい。
だが、あの黒い紙の警告が頭をよぎる。
『異変を見つけたら部屋に戻れ。何もなければエレベーターへ進め』
恐らく先程の異変は足音だ。
そして今、自分は悪霊に犯された後、こうして部屋の前に戻されている。
ここから抜け出すためにはやはり進むしかない。
相変わらず空腹を訴える腹の虫を宥めながら、は恐怖に竦む足に鞭打った。
「異変を見落とさないように、気をつけて、進まなきゃ……」
もう一度、あの静まり返った廊下へ向けては震える一歩を踏み出し、エレベーターを目指して歩き始めた。