第1章 『知られてはいけない、この気持ち』
「私……隠せてると思ってました」
正直に言うと、
ハンジが小さく笑う。
「全然」
即答だった。
「会議中でも、廊下でも、目が合うと慌てて逸らすし」
「っ……」
「でもまた見てる」
恥ずかしさで顔を覆いたくなる。
なのに。
そんな自分を、
ハンジは愛おしそうに見つめていた。
「気づかないふり、結構頑張ってたんだよ?」
「え……」
「団長としてはね」
その言葉に、
胸がきゅっと締め付けられる。
ハンジはそっと𓏸𓏸の髪を撫で、
静かに目を細めた。
「でも無理だった」
指先が耳に触れる。
「君が私を見るたび、嬉しくなる」
優しい声音。
それだけで、
涙が出そうになる。
憧れだった。
遠い人だった。
触れられるなんて、
想像したこともなかったのに。
「…… 𓏸𓏸」
名前を呼ばれる。
今度は、
もっと甘く。
「少しだけ、このままでいさせて」
抱きしめる腕が、
ほんの少し強くなる。
𓏸𓏸はその胸へ額を預けながら、
そっと目を閉じた。
𓏸𓏸は、その鼓動を聞きながら静かに目を閉じた。
規則正しく、冷静で、
誰よりも理性的に見えた人。
その胸が、
自分を抱きしめるたびに速くなる。
ただそれだけの事実が、
信じられないほど幸せだった。
倉庫の外では、
誰かの足音が遠くを通り過ぎていく。
壁一枚隔てた向こうには、
いつも通りの日常があるのに。
この小さな空間だけが、
切り離されたみたいに熱を帯びていた。
「……あと少ししたら、戻らないとね」
ハンジがぽつりと呟く。
けれど、
離れる気配はない。
𓏸𓏸もまた、
その服を掴んだまま指を緩められなかった。
知られてはいけないと思っていた。
この気持ちは、
胸の奥に隠したまま終わるはずだった。
なのに今、
憧れていたその人の腕の中で、
自分だけに向けられる熱を知ってしまった。
もう、知らなかった頃には戻れない。
_________fin.