【呪術廻戦】年下のきみが可愛くて。/みんな×主(先生)
第8章 春夏秋「冬-2」
最後まで言い終わる前に。
ぎゅっ、と。
強く抱きしめられる。
「……っ」
突然の温もりに、蘆屋の身体がわずかに揺れた。
乙骨は何も言わないまま、強く抱き締める。
震えを押し殺すみたいに。
乙骨「……無事で、よかった……」
掠れた声が、耳元で静かに落ちた。
しばらくの間、部屋には静かな呼吸音だけが落ちていた。
抱きしめられたまま、蘆屋はゆっくり体を預ける。
張っていた神経が、少しずつほどけていく。
そのあと、小さく笑って口を開いた。
「……帰ろっか?」
優しい声だった。
乙骨は一瞬だけ顔を上げ、それから小さく頷く。
乙骨「……そうですね」
けれど次の瞬間。
乙骨「あ、ダメです」
真面目な声。
乙骨「僕が……」
言い切るより早く、ひょい、と身体が持ち上がる。
「わっ……」
突然浮いた感覚に、蘆屋は思わず乙骨の服を掴む。
乙骨はそのまましっかり抱え直して、小さく笑った。
乙骨「ちゃんと捕まっててくださいね」
どこか過保護な声音。
そのまま乙骨は急ぐように部屋を出た。
夜風が頬を撫でる。
けれど今度は、不安より安心の方が大きかった。
抱えられたまま揺れる感覚の中で、蘆屋は小さく息を吐く。
乙骨はほとんど迷いなく、高専の寮まで一直線に戻っていった。
寮にもどり、部屋へ入ると、ようやく空気が緩む。
乙骨は慎重に蘆屋をソファへ下ろした。
乙骨「大丈夫ですか?」
「うん…!」
ほんのり、疲労の滲んだ声。
首元にはまだ赤い痕が残っている。
乙骨はそれを見て少しだけ眉を寄せたあと、なるべく穏やかに言った。
乙骨「……少しゆっくりしたら、お風呂、入ろっか」
その声は、まるで小さい子を安心させるみたいに優しかった。
蘆屋が小さく頷くと、乙骨は立ち上がる。
乙骨「お湯ためてくるから、待っててね」
そう言って、ソファへそっと身体を預けさせる。
クッションが沈む感覚。
そのあと、ぱたぱたと浴室へ向かう足音が遠ざかっていった。
部屋の中には、ようやく戻ってきた“安全な静けさ”だけが残る。