第1章 Lesson0 Too Close to Be Safe
「だって……しか、言ってない」
「何だって?」
「だから……好きだって、一度しか言って貰ってない」
「は?」
ぴたり、と空気が止まる。思ってもみなかった拗ねた横顔と、思ってもみなかった言葉に、ドラコは眉間にしわを寄せて怪訝な顔でレイを指さした。
「じゃあ君は……僕が好きだって言葉にしたことが無かったから、今まで婚約を破棄しようとしてたのかい?」
「わっ、悪いか!?重要な問題だぞ!!」
「はぁ……まさかそんな子供っぽい理由だったなんて」
「子供っぽくて悪かったな!」
そう言ってブーツでドラコの足を蹴ると、ドラコもレイの足を蹴り返してきた。
「痛い!レディの足を蹴るな!!」
「君こそ、婚約者の足を蹴るな!!」
「だから!婚約は破棄されたはずだ!!」
「またし直せば良いだけの話だ!!」
そんな至極下らない口喧嘩をしていると、いつの間にか馬車が屋敷に到着し、執事たちが出迎えていた。
子供のころから変わらない2人のやり取りを見ていた執事が、感慨深げにうんうんと嬉しそうに頷いている。それに気付いた2人は咄嗟に視線を交わすと、まるで何事も無かったかのように堂々と馬車から降りた。
「父上は戻っているのか?」
「はい、応接間でお待ちかねです」
「分かった、すぐ向かう。レイ、君は先に部屋へ行って着替えろ。雨に濡れていては風邪をひくからな」
この気取ったセリフ、きっと召使たちの前では婚約者面していたいんだろう。レイはろくに返事もせず、真っすぐ自分の部屋に向かった。
* * *
「疲かれたーーっ!!」
久々に自分の部屋に戻ったレイは、旅行用のマントを脱ぎ捨てると、キングサイズのベッドに飛び込んだ。
思い返せばこの1年、本当に色々あった。危険を顧みず魔法省に潜入したり、旅の途中で皆と散り散りになってしまったり、杖を失ったり、更には人買いにつかまってこの屋敷に連れて来られたり。それから――
(そ、そうだった。私ここでドラコに告白してキスを……)
思い出した途端、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
あの時は生死の境目で変に達観していたとは言え、我ながら何て恥ずかしい事をっ……。
レイが激しい羞恥心からベッドの上で枕を抱えて悶えていると、ノックと共にドラコが入って来た。