第1章 🍏
エレベーターを降りると、こちらに気が付いたマンションコンセルジュが優雅に微笑み小さく頭を下げた。
都内の高層高級マンション。下の階にいけば高級スーパーやジムなんかもあって利便性もよく、有名企業の社長や芸能人なんかが多く住んでいるそうだ。実際私の父親も有名なIT企業の代表取締役を勤めていて、こうしてこのマンションに住んでいる。
中庭に向かうドアが開けば生暖かい風がふわりと肌に触れる。10月になり日中はまだまだ暑い日々が続くが、夜になれば涼しい風が吹いていて、外に出るのが気持ち良くて、手に待っていた薄手のシャツをそっと羽織った。
中庭は、それなりの広さがあり木々や草花がお洒落に連なっている。忙しいであろうここの住人達は中庭などに足を運ぶ機会など無いのだろう。良くここに足を運ぶが誰かが来ているところを未だ一度も見たことがない。
少しばかり歩いて行くと、見慣れたいつも座っているグレーの座り心地の良さそうな野外用チェアがいくつかの場所に置かれており、その一つへと腰をかけた。
深く座りゆっくりと息を吐き出したところでポケットに入れていたスマホが小刻みに震える。画面を覗き込めばそこに書かれている文面に思わず大きなため息を吐き出した。
『来週の会食に来るように』
母親からのメッセージだった。父親も母親もこのマンションに帰ってくる事はない。もう何ヶ月顔を見ていないんだろう。父も母もそれぞれに愛人がいて、もうここ数年まともに生活を共にはしていない。だからこのやけに広い高級マンションの一室に私は一人暮らしをしているようなもので、時折り父の秘書が私の生存を確認しに来るくらいだ。
まぁそれに不便なんてしていなし、両親が家にいないのは幼い頃からでそれを今更気にするなんてこともない。
「はぁ、会食かぁ。会食ね…」
面倒だな。そう思いながらスマホをポケットへと仕舞い込めば、再びブーブーという電子音が夜の空間に響き渡って思わず肩をビクリと揺らした。
何故ならそれは私のスマホの音ではなかったからだ。