第2章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる II**
「……ん、むにゃ……」
が小さく寝言をこぼして、もぞりと寝返りを打った。
「……っ」
慌てて身を引く。
起きるのかと身構えたけれど、は反対側を向いたまま、また規則正しい寝息を立て始めた。
寝返りを打った拍子に、浴衣の襟元にかかっていた髪が落ちて。
白い首筋が、無防備に晒された。
そこには。
昨日、俺がつけた痕が――。
違う。
俺が残した場所に、さらに濃い色が重なっている。
まるで上から塗り潰されたみたいに。
それに、の目元は、泣いたあとみたいに少し赤かった。
(……五条先生と、何があった?)
俺が眠っている間に、二人は……。
最悪な想像が頭の中を駆け巡る。
心臓がドクンと嫌な音を立てた瞬間、襖の向こうで足音がした。
スパーンッと無駄に元気な音を立てて、部屋の襖が開く。
「おっはよー。いやー、朝風呂っていいねぇ」
湯上がりの五条先生が、首にタオルをかけたまま入ってくる。
白い髪は少し湿っていて、浴衣の襟元もいつもより緩い。
その視線が、俺のそばで眠っているへ向いた。
「あれ、まだ寝てる」
いつも通りの軽い声。
それが余計に、俺の神経を逆撫でした。
五条先生はそこで、ようやく俺に気づいたみたいに首を傾げる。
「恵ー、起きてたの?」
その余裕たっぷりの態度が、腹立たしくてたまらない。
俺は立ち上がり、先生を強く睨みつけた。
「……あんたっ」
怒りで声が震える。
昨日、俺を気絶させたこと。
の首に残された、あの痕のこと。
目元に残る、泣いたあとの赤み。
全部、問い詰めたい。
でも、ここで声を荒げたら、が起きる。
本人の前で、こんな話をするわけにはいかない。
それすら、この人にはわかっているんだろう。
「なに? 恵」
「……っ」
「昨日はよく眠れた? ぐっすりだったね」
「よくそんなこと言えますね。あんたのせいだろ」
五条先生は「あれ、そうだっけ?」とでも言いたげに首を傾げた。
本当に、腹が立つ。
こっちは一晩分の記憶を奪われて。
その間、好きなやつに何があったのかもわからなくて。
なのに、この人はいつも通りにへらへら笑っている。