第2章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる II**
「……」
名前を呼んだ声が、自分で思ったより低い。
「恵のこと、好きなの?」
そう言った次の瞬間、が弾かれたように顔を上げた。
「ちがっ……私は、ずっと……」
「ずっと……?」
「……先生のことが……」
どくん、と大きく心臓が跳ねた。
……何、今の。
今まで、その先の言葉はいくらでも聞いてきた。
軽く笑って流せるくらいには、聞き飽きていたはず。
誰かに言われても、面倒だと思うだけで。
欲しいと思ったことなんて、一度もない。
の気持ちもとっくに知っている。
知っているはずなのに。
聞きたい……なんて。
僕は親指で、涙に濡れたの目尻を拭った。
そのまま頬に触れて、僕から視線を逸らせないよう顔を上げさせる。
「……続きは?」
の声で。
ちゃんと、最後まで。
「僕のことが、何?」
はきゅっと結んだ唇をゆっくりとほどいた。
小さく息を吸って、覚悟を決めたみたいにまっすぐ僕を見る。
「……わ、私」
「うん」
「先生のことが……す――」
その先がこぼれ落ちる寸前、隣の布団で恵が身じろいだ。
かすかに布団が擦れる音。
畳が小さく軋む音。
の身体がびくっと強ばった。
さっきまで僕を見ていた目が、はっとしたように揺れて。
僕の肩越しに恵の方へ意識が向いたのがわかった。
「……な、なんでも、ないですっ。忘れてください」
はそう言って、僕から逃げるようにまた背中を向ける。
さっきまで言いかけていた言葉ごと。
僕の腕の中からすり抜けるみたいに。
なんでもないわけないでしょ。
喉元まで出かかった言葉を、僕は飲み込んだ。