第1章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる**
「は大丈夫だった? 恵に襲われたりしてない?」
それは、いつもの先生のからかいのはずだった。
なのに、どう答えればいいのかわからない。
「大丈夫です」と。
「先生、何言ってるんですか」と笑って返さなきゃいけないのに。
なのに、今はそれができない。
「あ、ぁの……っ」
伏黒くんに触れられていた所が、まだ熱を持っている気がして。
先生の冗談が、冗談に聞こえない。
私は何も言えないまま、浴衣の合わせを両手でぎゅっと握りしめた。
気まずい沈黙が落ちる。
その沈黙を破るように、頭上で小さく音がした。
チカッ……チカチカッ。
天井の蛍光灯が何度か瞬いて、パッと部屋中が明るくなる。
「お、電気ついたね」
先生がのんきな声を出して、懐中電灯のスイッチを切った。
急に明るくなった部屋に目が眩む。
伏黒くんがこっちを振り向いて、はっきりと目が合った。
さっきまで暗闇だったから、まだ平気だったのに。
こうして顔を見ると、さっきのことを思い出してしまう。
急に恥ずかしくなって、私は慌てて視線を落とした。
(伏黒くんと、あんなことやこんなことを――)
気まずさと、どうしても消しきれない甘い余韻。
二人の間にしかわからない、なんとも言えない空気が流れる。
「よいしょ、っと」
そんな私たちの空気を断ち切るように。
私と伏黒くんの布団の真ん中へ、上からどさりと布団が落とされた。
ぴったり並んでいた二組の布団が、無理やり引き離される。
先生は当然みたいな顔で、その間に自分の布団を敷いてしまった。
(え……っ?)
私と伏黒くんが言葉を失っている間に、先生は真ん中に仰向けで寝転がった。
伏黒くんと私しかいなかった空間が、一瞬にして先生に塗り潰されていく。
先生は黒いアイマスクを指にかけ、ゆっくりと下へとずらした。
露わになった、透き通るような青い瞳。
有無を言わせないその強い視線が、私と伏黒くんを射抜くように見据えた。
「今日、僕も一緒に泊まるから」
𓂃 クロユリは君を欲しがる 𓂃
── to be continued.