第2章 予定は未定で仮定の話し
そんな彼女が買ったばかりのダイニングテーブルに座り、これまた買ったばかりの例のあのマグを自分の前と正面に1つずつ置く。
片手間で話すようなことじゃない、こっちにきて居住いを正せと言われているような気がして、辛うじて動いていた手を止めた。
「なになにどしたの、そんな改まって」
「契約書作ってみたんです」
「契約書?なんの?」
「一緒に住むならちゃんとしたほうがいいと思って」
「ほう」
「あ、でもそんな硬い感じじゃなくて、ルールみたいなものです」
自分の鞄から抜き取ったのは半透明なファイル。職場での会議を彷彿とさせる動作で、A4サイズの用紙を俺の目の前に滑らせると、そこには箇条書きで数項目打ち込まれていた。
「私が勝手に考えて作っただけですし、納得できないものもあると思うんで、その時は言ってくださいね」
「はいよ、とりあえず読むから数分ちょうだい」
・家事は完全タスク化
体調不良等、緊急時は除く。
・私生活への過干渉禁止。完全セパレート
寝室は別々。お互いの部屋に入る際は必ずラインで事前連絡を入れること。
・コスト折半
生活費は全て割り勘。
・スキンシップ禁止
不必要な接触は一切禁止。
・恋愛感情発生時の即時解散権
共同生活を重いと感じたり、他に本当に好きな人ができた場合は、即座に離婚届を提出する。
ひと通り目を通してから思う。望月らしいなと。そしていつの間にこんなもの、とも。
多忙なのはお互い様で、夜な夜な頭を捻ってパソコンに向かっていたのかと思うと、何とも言えない気分になる。
きっと俺への配慮に重きを置いたであろうそれを、彼女はどんな気持ちで作成したのか。
「おまえはこれで納得してるかんじ?」
「はい。じゃなかったら作りませんよ」
「そっか。なら俺もこれで問題ねえよ」
あの夜彼女は俺に気持ちがあると、確かにそう言った。
あの夜俺は彼女を面白いと、確かにそう思った。
環境の変化に順応もしていない、生活すらまだ始まっていない中で、はたしてこれで良かったのだろうかと。
強引に押し通したこの現実を、彼女はどう受け止めているのか。聞くタイミングを見失ったら最後、そればかりがずっと頭を占領して中々離れてくれなかった。