第6章 番外編 忘れられない温度
通い慣れた帰り道だった。
なのに何故か突然、空気が変わったと気がつく。
異様な静けさ。
ただただ嫌な予感だけがした。
(……なんだ)
足を速める。
本丸が見える。
――違和感。
何故か門が、壊れていた。
「……っ」
とにかく走った。
玄関ではなく中庭から本丸の中へ飛び込み、靴のままだということも忘れ主を、仲間を探した。
(宴をするんじゃなかったのか)
賑やかだったはずの声は、ない。
誰の気配もない。
血の匂いだけが、残っている。
「……誰か」
返事はない。
無惨に開け放たれた扉の先、その奥へ進む。
皆、うつ伏せの状態で床に倒れていた。
「……嘘だろ光忠」
厨、食堂、図書室、居間を通り抜けさらに奥へ。
そして、見つけた。
白い布。
見慣れた姿。
――主を守り倒れているっ。
「……くに、ひろ……主」
名を呼ぶ。
だが返事は返らない。
より近づき、触れる。
……冷たい。
遅かった。
全部。
何もかも。
守れなかった。
間に合わなかった。
その手の中で。
何も、掴めなかった。
指の間から、全部こぼれた。
そのとき。
ポケットの中で、何かが当たる。
ゆっくりとそれを取り出す。
――黄色い髪留め。
無傷のまま。
そこにある。
「……」
言葉が、上手く出せない。
ただ見ている。
渡すはずだったもの。
もう、渡せないもの。
その意味だけが、残る。