第1章 ひとりぼっちの居場所
雨上がりの石畳は、ひどく冷たかった。
ヒスイは神社の軒下で丸くなりながら、小さく息を吐いた。
濡れた毛がまだ乾かない。
昔ならこんな思いはしなかった。
――あたたかい場所を、知っているからだ。
柔らかい布。優しい手。名前を呼ばれる声。
けれどそれはもう、ない。
「……にゃ」
喉の奥で鳴いた声はどこか空っぽだった。
ここは、ヒスイの縄張りだ。
正確には、“妖怪と恐れられたあの猫又の縄張り”を分けてもらっているだけだが。
古びた神社には人はあまり来ない。
だからこそ、ヒスイはここで生きていけた。
そして――ここで、“力”を知った。
『いいかい、小僧。お前はただの猫じゃない』
くしゃくしゃの声で笑った猫又は、ヒスイにそう言った。
『想いが強ければ、形は変わる。人にもなれる』
最初は信じなかった。
けれど何度も何度も失敗して、やっと――
「……っ、また、失敗……か」
今も指先は不安定に揺れている。
人の形を保てる時間はほんのわずかだ。
それでも。
それでも、なりたかった。
――“あの人”に、触れられる形に。