第6章 エデンを覗き見る
大袈裟にため息を吐き出して、また箸を動かし出すコイツを見る限り、大惨事にはなってないんだろうことに心底ほっとした。
そんなことした自分に頭を抱えたくなったのは言うまでもない。言うまでもないが、俺にはまだ問題が残ってる。
朝からずっと胸くそ悪かった。
抱きしめて離さなかった自分の軽率さに、後悔した所で所詮は後の祭り。どう切り出すか、どう謝るか、そればかりがずっと頭ん中を占領してた。気持ちが望月に傾いた以上、いつもの軽いノリでのセクハラだとは思われたくない。かと言って本気だったなんて言うつもりはもっとない。
酒の入った時の言動など信憑性のカケラもないのは、身に沁みて理解してるからだ。
柄にもなく悩んで悩んでコイツをここで見つけた時は、心臓が跳ねる勢いでばくばく言ってたってのに。抱きついた相手は望月だと思ってた。だけど蓋を開けてみれば諏訪さんだったって。どんなオチだよ。記憶の改ざんも大概にしろよ俺。
「悩み事ですか」
「ん?俺?」
「他に誰もいないでしょ」
「そんな風に見えるか?」
空になった皿をトレイごと横にずらして、端末を弄りながらそう聞く望月は、一瞬だけ俺を見た。本人に自覚がなくとも、捉えた瞳の奥には俺を案ずるような色を宿してる。
それにコイツは時々変に鋭い。それも触れて欲しくない部分を的確に抉ってくる。根掘り葉掘り聞くことはないが、雰囲気で察する感受性はたまにどきりとさせられるぐらい強いから困る。
緊急招集がかかった時と言い、こないだの任務の時と言い、そこまで露骨に自分の内側の変化を晒した覚えはないはずなのにな。
強いて言えばあれだ。
「あ、太刀川さんちょっと待って」
「…………」
端末を片手に席を立ち、人の少ない壁側へ移動して耳にあてるその姿。それが悩みの種だよ、とは言えないし言った所でどうにもならないのは重々承知してる。
気づいてしまった最初こそテンパって、自分のコイツに対する特別な感情を無き者にしてしまおうか、はたまた忠実に従って堕としにかかろうか。そんな両極端な発想しか思いつかなかった。
任務中、コイツの横顔を見てると居ても立っても居られずに、そんな男やめとけよと喉元まで出かかった言葉。
今は遮ぎられたことに安堵すら感じる。