第6章 エデンを覗き見る
「うわっ珍し!だから今日雨降ったんだ」
「おいこら、それは俺のせいじゃないだろ」
大学の食堂、1人黙々と昼メシを食ってる望月を見つけた。
ピーク時は過ぎてるが、その割に人もまだまだ多いこの場所。入り口の所で既に目がいったのはただの偶然だ。
ウザい絡み方をした昨夜の謝罪もしておかねーと、望月の機嫌を損ねたまま放置するのは分が悪い。トレイ片手に無言で正面の席に座ると、気づいたコイツは失礼きわまりない言葉。俺だって朝から受ける時もあるんだよ。年に数回はな。
「で、二日酔いは大丈夫なんですか?」
「後に残らねー飲み方してんのに、二日酔いなんかなるわけないだろ。爽快な気分で朝起きれたぞ」
「でも諏訪さんには謝っといた方がいいんじゃないですか?」
「は?なんで諏訪さん?」
「え?」
「え?」
「まさかと思うけど、記憶、ちゃんとありますよね?」
怪訝にもドン引きにも見える表情の望月が、それまで器用に動かしていた箸をぴたりと止めた。ちゃんとありますよねって、今までただの一度もぶっ飛んだことなんざない俺によく言え……。
いや、ちょっと待て。
そう言われてみれば、曖昧な記憶の半分が、綺麗さっぱり抜けてるような気がしなくもない。特にコイツが掛かってきた電話に出るのに席を外してから。
「その顔じゃ何にも覚えてないんでしょうね」
「何にもは言い過ぎだろ。所々は覚えてるっての」
じゃなかったらお前に罪悪感など湧かない。いくら酒が手伝ったとて、あれはやり過ぎだと自分でも思ってる。
「じゃああたしの電話邪魔した挙げ句に、もう少しで怪我する所だったのも、諏訪さんに抱きついて離したくないだのお前ん家に泊まるだの、迷惑かけたことも覚えてるんですか?」
「は?」
「ほらやっぱり覚えてないでしょ」
「俺がお前に?」
「そうですよー。諏訪さんが助けてくれたから、この通りピンピンしてますけどね」
「マジでどっこもなんともねーか?」
「ないない、傷一つないです」
血の気が引く音を聞いたのは初めてかもしれない。自分の顔がみるみる青くなるのもなんとなく分かる。望月に危うく怪我させる所だったのは知らない、覚えてない。