第6章 エデンを覗き見る
愛しいなと思って。
触れたいなと思って。
「花衣……?」
「……冷たい。どれだけ待ったの、駅で」
「そんな待ってない」
「意地っぱり」
距離をつめて頬に触れた。
手のひらから伝わる温度は、凍りそうに冷たいあたしの指先と同じ。
びっくりした蓮が目を見開いてあたしを見たその瞳には、さっきの鋭くて刺さるような怒気はもう映ってなかった。
「花衣、」
「ちょ、……いつもいきなりだよね」
「嫌なのかよ」
「嫌じゃないよ」
「他のヤツの匂いがする」
「………あー、ごめん」
「むかつく」
「なんで?」
触れていた手を取られて、そのまま引かれれば面白いぐらい簡単に、腕の中へ閉じ込められた。首すじに顔を埋めたまま、小さく溢した蓮に、あざといあたしは分かってて聞いたんだ。
触れた箇所から入ってくる想いより、
音にした言葉が欲しかった。
「花衣ってそこまで鈍感じゃねぇだろ」
「そこまでってどこまで?」
「他のヤツの匂いもむかつくけど、今の花衣もむかつく」
「だって言ってくれなきゃ分かんない」
長く息を吐く蓮が、抱きしめる腕に一層力を込めた気がした。
「好きだ」
「うん」
「自分の立場も考えらんねぇぐらい」
「うん」
「つーか、うんってなんだよ」
「あたしも好きだよ、の、うん?」
「………」
蓮の言葉を聞いて、あたしの想いも口にして、じわじわと満たされる何かはこんなにも温かい。彼がしてくれているのと同じように、そっと背中に回した腕からも、この溢れんばかりの気持ちが伝わってほしい。
「ていうか、立場ってなに」
「……ほら、店員が客に手ェ出したとか、あんまよくねぇじゃん」
「あたし手出されたの?」
「いや、これから出す予定」
悪戯に笑った彼の、あたしの好きな笑顔。
こんな住宅地の道のど真ん中で、生憎夜空は曇ってて、星一つさえ光ってないけど。
あたしには、
世界が変わったように見えたんだ。