第6章 エデンを覗き見る
「花衣さん!うしろ!」
あと数秒遅かったら彼も串刺しになってた。そこそこ助走がついてくれてたおかげで、遥か彼方に吹っ飛ばされたモールモッド。けっこう飛んだな、なんて呑気な思考は、光ちゃんの声にはっとなる。
振り返ると彼のそれと同じ状況。いやそれより悪い。距離は僅か数メートル。ブレードの先が今まさに体を貫こうとした所でシールドを起動した。
「へぇ、なかなかいい反応するじゃねぇか」
「………いつから見てた、のよ」
「お前がグラスホッパー投げる前ぐらいからか?」
「趣味悪っ」
「助けて下さいって言えや。そしたら加勢してやるよ」
右手の孤月はブレードを防ぐことで精一杯。左手のシールドには小さなひび。絶体絶命とまではいかないけど、屋根の上で憎たらしい笑みを称えて見下ろす影浦くんの、手を借りれるならそれが一番望ましい。
だけどこればかりは性分だ。素直に従うほどあたしの性格はまっすぐじゃない。簡単に乗るのはどうにも癪すぎて、それでも分が悪いのは明らかにこっちだ。
「ほらどうしたよ。早く言わねぇと喰われちまうぞ」
頭上から聞こえた影浦くんの声には、腹立たしいほどの含み笑いが混じってる。ドS心全開で、苦戦するあたしを楽しそうに眺めて。
いいよ、そんなに欲しいなら乗ってあげる。
その性分を最大限に擽ってあげるわよ。
シールドを解除した瞬間に、グラスホッパーで距離を取った。そのまま屋根の上の影浦くんの傍へ。体と体が触れ合うギリギリの所で彼を見上げて。
「お願い助けて?まーくん」
「ま、………………チッ。クソがっ!」
ほんの一瞬、影浦くんの時間が止まったのは気のせいなんかじゃないと思う。まさか自分がそんな風に呼ばれるなんて思ってもみなかったのか、目を見開いて、なんなら口も半開きで。
花衣おまえ、後で覚えてろよ。そんな言葉を通信で拾ったのは、早々に飛び降りて駆けて行ったから。
何言ってんの。
覚えてるわけないでしょうが。
そもそも煽ったのはそっちでしょ。
口角が上がったあたしの表情は、きっとさっきの影浦くんのそれよりも、ずっとずっと小憎たらしい顔をしているんだろうなと思った。