第5章 無重力に花は咲く
そこまで期待してなかったけどって言った蓮は、映画が終わって、カフェに入って、適当にぶらぶらした後、自宅の最寄り駅で降りてからも、ずっと興奮したまんまだった。アクション映画なんて初めて観るみたいな、そんな表情でその話題ばかり嬉しそうに口にして。彼の横顔を見つめると、つられてこっちまで笑顔になった。
「楽しかった?」
「おー、久々にこんなはしゃいだわ」
夕暮れの、濃紺がオレンジを隠す間際、一つ二つと星が光って、目線を下げれば街灯がつき始める時間帯。冬特有の空気は、掠めるだけで肌を刺すようにチクチクと痛い。隣を歩く蓮の唇からは、白い息が空に上がった。
彼の優しさについ甘えてしまって、あたしのワガママで付き合わせた1日も、蓮の言葉で救われたような気がする。
「花衣って案外びびりなのな」
「え?なんで?」
「観てるとき、でかい音にビクついてただろ、しかも毎回」
「そんなことない、はず」
「いやあるし」
悪戯な笑みを作って、怖がりすぎだろって、からかうようにあたしを見る。思ってたよりも派手なアクションシーンが多くて体が跳ねた数時間前を思い出してみたけど、そこまであからさまに反応してないのに。あんな薄暗い空間でよく観察できたよね。
「そういや明日は?なにしてんの?大学は休みだろ?」
「明日は朝から仕事だよ。夕方には終わるけど」
駅の売店で買ったガムをあたしに一枚差し出して、自分も口に放り込んだ蓮の職場の前を、一緒に素通り。いつも通ってるそこを、扉を開ければ待っててくれる人と歩いてるって、なんか凄い不思議な感覚。無意識に口もとが緩んでたのか、なにニヤニヤしてんだよって、笑われた。