第5章 無重力に花は咲く
「あ、花衣さんじゃん、来てたんですね。って、何やってんすか」
「あたしも分かんない。何やってんだろうね」
太刀川隊作戦室。ソファーの真ん中を陣取って、その前に設置されたテーブルには、パソコンとプリントと教科書とノートとシャーペンの山。
学校帰りに直行したらしい出水くんは制服姿のまま、作戦室の扉を開けた瞬間、めちゃくちゃ嫌そうな顔をした。ほんとあたし、何やってんだろ。
「ねー花衣ちゃん、これどうやんの?」
「どれ、……あー、それはここをこっちに移行するの。そしたらほら、」
「おお!すげー!できた!」
「駿くんこれ1学期で習ったばっかでしょ?」
「望月これ何て読むんだ?」
「どれですか、って、こんな漢字も読めっ、………もういいです太刀川さん何もしなくていいからじっとしてて」
見る視点を変えれば両手に花。だけど真っ向からちゃんと見るとこれは明らかに両手に毒だ。右隣りで最早一から出直したほうが手っ取り早いぐらい、ちんぷんかんぷんな顔してる駿くんは、期末試験の数学を事もあろうに一夜漬けで明日挑むらしい。
たまたま廊下で出会したあたしの今日の運勢は最悪だと思う。いつものキラキラ笑顔と花衣ちゃん教えて、な言葉に押し負けた状況が、今、だ。
かたや左隣りのアホ師匠。もうこの人は手遅れ。来週が提出期限のレポートを、やろうとする姿勢は買うけど、日本語が不憫すぎて使い物にならない。つきっきりでいろいろ教えてもらった恩もあるから、今回だけは手伝うけどさ。昨日の電話、無視すれば良かったと切実に思う。