第5章 無重力に花は咲く
「もしもし」
「望月?お前明日の予定は?」
「明日?明日は、えーっと、お昼過ぎまで授業でそれからは何もないですよ」
「じゃあ終わったら本部な」
「え、また模擬戦ですか?やですよもう」
「違う違う、お前に頼みたいことあるんだよ」
「…………太刀川さんがそう言う時って毎回ロクなことないんですけど」
「んなことねーよ。とりあえず明日終わったら連絡くれ、じゃあな」
いつかの再現みたく、自分の要望だけ伝えて早々に切れた端末に向かって、盛大に吐き出されたため息。嫌な予感しかしないのは、今まで散々あたしを振り回してきた実績があの人にはあるからで。
次はどんな無茶ぶりを持ちかけられるのか。そう考えるだけ無駄なのは、いくら否定したところでけっきょくは太刀川さんに甘いあたしが、嫌々ながらにも飲んでしまうからだ。
「急用?」
「ではないんだけどね、明日のあたしのお一人サマ時間がなくなっただけ。連チャンで来ようと思ってたのに」
酷使しまくった体には癒しが必要。明日こそあの窓際で、いい加減読み切りたい本も持参して、ゆっくりしたかった計画がおじゃんだ。
鞄に終う際に見えた端末の画面は午後6時。蓮が出してくれたキャラメルラテが思ったより美味しくて、もう空っぽ。
意外に経ってた時間にびっくりして、そろそろ帰ろうと、散らばる書類も一緒に鞄の中へと押し込める。
「キャラメルラテ、めっちゃ美味しかった、ごちそうさま」
「次来た時も飲みたかったら出してやるよ」
「でも一杯目はエスプレッソにしてね」
「りょーかい」
レジで会計をして、彼に手を振り店の外へ。外気に触れたせいで、あったまった体が僅かに震えた。徒歩数分の自宅へと足を向けながら、ふと思う。初対面にも等しい人間と、あそこまで砕けて話せたのは初めてだなと。