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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第3章 玄英宮に響く歌声


「ははは! 見たか?六太のあの間の抜けた顔。あれだけでも、お前さんに大役を頼んだ甲斐があったってもんだ」



「もう、からかわないであげてください。……式典、お疲れ様でした。尚隆様」



やってきた尚隆の姿には思わず息を呑んだ。
今日の尚隆は、いつもの少し気楽な格好とはまるで違っていた。
王としての威厳に満ちた格式高い式典用の豪華な礼服。
美しく長い黒髪も今日は美しく整えられ、格調高い冠がその頭上に戴かれている。



(……かっこいい……)



壇上にいた時は極度の緊張のせいでじっくり眺めたり、胸をときめかせる余裕なんてなかった。
けれど、一目見たその瞬間から、本当は釘付けになりそうだったのだ。
こうして間近で改めて見る彼の「厳格な王としての姿」に、の心臓はドクンと大きく跳ね、頬がほのかに赤く染まっていく。
そんな彼女の様子に気づいているのかいないのか、尚隆は優しい眼差しでを見下ろすとふっと口元を和らげた。




「改めて、ご苦労だったな。お前さんの歌声、本当に素晴らしかった。宮中が丸ごと骨抜きにされて、朱衡すら文句のつけようがないほどの出来栄えだったぞ」


「と、とんでもないです……っ! 私の方こそ、このような大役を任せていただけて……それに、尚隆様や六太君、皆さんに喜んでいただけて、本当に嬉しいです」



緊張とときめきで声が少し上ずってしまうを見て、六太がニヤニヤしながら尚隆の脇腹を小突いた。



「なーに言ってんだよ、尚隆。本当は自分がいちばん驚いてたくせにさ!が出てきた時、おっさん、完全に目が点になってたもんなぁ?」


「……六太、お前は少し黙ってろ」



尚隆はバツが悪そうに六太の頭を軽く小突くと、まだ少し耳の後ろを赤くしたままのに向き直りどこか照れくさそうに笑った。



「本当に、よくやってくれた。お前さんを楽士として迎えて、本当に良かったと思っている。……今日はゆっくり休んでくれ」


「はい! ありがとうございます、尚隆様」




嬉しそうに笑うと、優しい瞳で見つめる尚隆。
その様子を、六太と女官たちは温かい笑みを浮かべながら見守っていた。



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