第3章 風
「申し上げます」
落ち着いた声が、その場を静かに断ち切った。
顔を上げ、横を見れば兄弟子がお館様を真っ直ぐ見据えていた。
「此度の件、カヲルが鬼の血鬼術にかかり、同胞を斬ったことに相違はございません」
淡々とした声音。感情を挟まない、事実だけの報告。
まともに声も出せない私に代わって、兄弟子は淡々と事実を述べて行く。
「しかしながら、それは本人の意思によるものではなく、戦闘下における不測の事態によるものであります」
そして私の方を一瞬だけ見ると、膝に置いた拳を強く握りしめた。
「とはいえ、結果として隊士を一名失っております」
その言葉が、耳に重く落ちた。
「育手は既に他界しておりますゆえ、監督責任は兄弟子である己にございます」
そのときだった。兄弟子の手が、静かに腰へと伸びる。
日輪刀をゆっくりと外し、目の前へ置いた。
小さな音が、広い庭にやけに大きく響く。剣を手放すという行為は、剣士であることを、捨てるという覚悟。その意味を、働かない頭が一瞬で理解してしまう。
「つきましては──」
わずかな間が、恐怖にも似た感情をさらに膨らませる。
「己が責を負い、切腹をもって償う所存にございます」
静かに、言い切られた。兄弟子は、私の方を一切見なかった。
まるで迷いは初めから存在しないとでも言うように。
喉がひどく乾く。喉が張り付くように痛い。
『やめて』
そう言いたいのに、声が出ない。それを止める資格が、自分にあるのか分からなかった。全部、私のせいなのに。
それでもこれ以上、奪いたくない。私がやらなければいけないのに。
「……待って、ください……!」
震える声が、ようやく響いた。