第1章 レンズ越しの体温 【ヒロアカ 轟焦凍×モデル】
「俺たちが現場でヴィランを制圧し、人々を安心させるように、彼女は一瞬の表情や仕草で、見る者の感情を動かす。戦う場所は違うが、あれも一つの、完成された『プロフェッショナル』の姿だった」
熱を帯びた轟の語り口に、飯田が感銘を受けたように腕を組む。
「なるほど! 轟くんにとっても、非常に良い刺激になったということだな!」
「ああ。……正直に言えば、彼女に見入ってしまったくらいだ」
さらりと、本音を零す。
緑谷と飯田は一瞬顔を見合わせた。
轟がこれほどまでに他者を、それも異性を高く評価し、素直に心を開いたような口ぶりをするのは珍しい。
「……ねえ、轟くん。また彼女と会う機会とか、あったりするの?」
緑谷が少しだけ探るように尋ねる。
轟は、あの撮影の別れ際、彼女が軽やかに手を振っていた姿を思い出した。
「いや、連絡先も聞いていない。……仕事の現場だったからな」
だが、轟の胸の奥には、確かな余韻が燻っている。
あの日、彼女が教えてくれた「見せる」ということ、そして彼女の瞳に映っていた自分。
「だが……もしまた会えるなら。今度は俺が、彼女に何かを返せればいいと思う」
そう答えた轟の横顔は、雑誌の紙面で見せた大人びた表情とはまた違う、年相応の色を帯びていた。
緑谷と飯田は、箸を止めて思わず顔を見合わせた。
無意識に、しかし熱を帯びた口調で彼女を語る轟。
その瞳には単なる共演者への敬意以上の、静かな余韻が揺らめいている。
(……これは、もしかして)
緑谷が目で問いかけると、飯田も眼鏡の奥で「察した」と言わんばかりに深く頷いた。
当の轟は、二人の無言のやり取りに気づく様子もない。
ただ、手元のコップを見つめたまま、あの時触れた柔らかな質感と、スタジオに満ちていた残り香を、記憶の奥で辿り直しているようだった。