第1章 レンズ越しの体温 【ヒロアカ 轟焦凍×モデル】
「いいですね! 二人とも、今の空気感最高です!」
カメラマンの興奮した声が響く。
シャッター音が連続して鳴り響く中、轟は不思議な感覚に陥っていた。
あれほど重苦しかったスタジオの空気が、彼女が隣にいるだけで、まるで自分のフィールドのように感じられる。
「……助かる。君の言う通りに動くと、不思議と体が軽くなるな」
「ふふ、それはショートさんのポテンシャルが高いからですよ。さあ、次はもう少し大胆に。私を抱き寄せるくらいの勢いでいきましょうか」
「……善処する」
美男美女が織りなす圧倒的な世界観に、周囲のスタッフたちは溜息をつくことさえ忘れ、ただその光景に見入っていた。
「ふう……。一旦休憩です!」
カメラマンの「休憩!」という声が響いた瞬間、がふっと肩の力を抜いた。
それまで纏っていたトップモデルのオーラが和らぎ、年相応の柔らかな少女の顔が覗く。
「……お疲れ様。助かった、」
轟もまた、張り詰めていた吐息を漏らした。
慣れないポージングの連続で、ヒーローコスチュームを着て戦うのとは違う種類の疲労が体に溜まっている。
スタジオの隅には、色鮮やかなケータリングが用意されていた。
二人は連れ立って、用意された丸椅子に腰を下ろす。
「ショートさん、これ。ここのお店のケータリング、モデル仲間でも人気なんですよ」
が差し出したのは、数種類のデリが盛られたプレートと、出汁の香りが漂う小ぶりなカップ。
「これは……蕎麦か?」
「ふふ、当たり。ショートさんがお蕎麦好きだって小耳に挟んだので、スタッフさんにお願いしておいたんです」
「……気が利くな。感謝する」
轟は少し驚いたように目を丸くし、それから一口、蕎麦を啜った。
冷たい出汁が喉を通ると、撮影の緊張で強張っていた胃の辺りが、じんわりと解けていくのがわかる。
「どうですか?」
「……美味い。出汁がしっかりしているな」
「良かった。私はこっちのサラダとチキン。……ショートさん、そんなにまじまじと見ないでください。撮影中は、少し控えめにしなきゃいけないから」
が苦笑しながら、フォークで小さく切った野菜を口に運ぶ。
その洗練された所作に、轟は改めて感銘を受けた。