第1章 レンズ越しの体温 【ヒロアカ 轟焦凍×モデル】
スタジオの空気は、独特の緊張感に満ちていた。
重厚な機材の数々、スタッフたちの無機質な指示、そして何より、自分に向けられる無数の視線。
「ショートさん、もう少し肩の力を抜けますか? スーツが突っ張って見えちゃうので」
カメラマンの声に、轟は小さく頷いた。
しかし、その体は強張ったままだ。
ヴィランを前にした時のような鋭い眼光は、この華やかなセットの中ではどこか浮いてしまっている。
「……すまない。加減が難しいんだ」
「いいですよ、そのままで。ショートさん、ちょっとこちらを見て?」
凛としながらも柔らかな声。
隣に立つトップモデルのが彼に歩み寄った。
彼女はこの道数年のキャリアを持つプロだ。
数分前、初対面の挨拶を交わしたばかりだが、その佇まいには圧倒的な余裕がある。
は轟の正面に立つと、躊躇いなく彼の手をとり、自分の腰へと導いた。
「え……?」
「エスコートのポーズです。私があなたのリードで歩いている、そんなイメージで」
彼女の細い腰に触れた瞬間、轟の指先に熱が灯る。
は彼の胸元にすっと顔を寄せ、上目遣いで彼を見上げた。
「ショートさん。今、頭の中で何を考えてる?」
「……服を汚さないようにとか、ライティングを遮らないように、とか」
「真面目ね。でも、今は全部忘れていいですよ」
は悪戯っぽく微笑み、彼のネクタイの結び目を指先で軽く弾いた。
「私がヴィランに襲われて、あなたが助けに来てくれた。今、私たちはその帰り道。……どう? 少しは守ってくれる気になったかしら」
「……ああ。それなら、得意分野だ」
轟の瞳に、迷いとは違う光が宿る。
はその変化を見逃さず、彼の腕に自身の腕を絡めた。
「いい顔。そのまま視線をレンズの少し上へ。私が隣にいるから、あなたは前だけを見ていればいい」
彼女のリードは、驚くほど自然だった。
轟が動くべき方向を、彼女が肌の接触や視線の誘導で、言葉以上に雄弁に伝えてくる。
彼はただ、隣にいる彼女の存在を指針にするだけでよかった。