第12章 未来への道標
第70話:帰還、そして新たな「仁友堂」
「……先生! 南方先生、気がつきましたか!?」
眩い蛍光灯の光。一定のリズムを刻む電子音。
南方仁が目を開けたとき、そこは二十一世紀の東都大学付属病院の病室。タイムスリップしたあの日から、現実の時間ではわずか数時間しか経っていなかった。
しかし、仁の脳裏には、幕末で過ごした数年間の記憶が鮮烈に焼き付いていた。
江戸の火災、家茂公の穏やかな死顔、龍馬の力強い握手。そして……守れなかった沖田総司の最期。
仁は立ち上がり、ふと自分の白衣のポケットを探る。
そこには、現代の医療器具に混じって、江戸で自作した古いピンセットと、桜子が持っていた「お菓子」の切れ端が残っていた。
「……夢じゃなかった。私は、あそこにいたんだ」
仁は、変えてしまった歴史が現代にどう影響しているかを確認するため、狂ったように図書室へ駆け込んだ。
歴史の教科書を開くと、そこには驚くべき記述があった。
『幕末の奇跡:坂本龍馬、中岡慎太郎、世界の海援隊を設立し、日本の近代化を三十年早める』
『皇女和宮、日本初の慈善病院「仁友堂」の総裁に就任』
「……やった。私たちがした事は、間違えではなかったんだ」
仁は涙を流した。自分が救った命が、この国の形をより優しく、より強く変えていた。
仁は後輩を指導したその後、大学病院を辞職。
彼が目指したのは、江戸で咲や桜子と共に志した「誰もが等しく救われる医療」。
歴史が変わった現代では、南方家には膨大な幕末の資料が遺されていた。「南方仁という謎の医師が、坂本龍馬と共に未来の医術を広めた」という伝説が、医学界の定説となっていた。
仁は、その「先祖(=自分自身)」の名声を借りるのではなく、自らの腕と知識で、新たな医療法人「南方堂」を設立した。
漢方と西洋医学を融合させ、予防医学と精神ケアを重視するそのスタイルは、瞬く間に世界中で評価され、仁は「現代の赤ひげ」として、医療界のトップへと上り詰めた。