異世界転生悪役令嬢だと思ったら、本当の悪女はヒロインだった
第7章 令嬢は静かに分析する 中編
私はゆっくり息を吐いた。
「セバス」
「はい、お嬢様」
「階段付近の足場、絨毯の状態、手すりの高さを調べて」
室内の空気がわずかに変わる。
父が静かに問う。
「事故ではないと?」
私は首を振る。
「断定はいたしません。ただ――確認を」
まずは物理的事実。涙の前に、証拠を。
「滑りやすい素材だったのか。手すりは低すぎなかったのか。転落する合理的理由があるのか」
淡々と並べる。
「もし構造上の問題があるなら、他の生徒も危険です。学院の安全のためにも必要なこと」
それは正論――感情ではなく、公的理由。
父はしばらく沈黙し、やがて低く頷いた。
「……良いだろう。三日間で調べろ」
許可が下りる。盤面は動き始めた。
セバスが静かに言う。
「巡回記録と清掃記録も確認いたします」
「お願い」
マルタが付け加える。
「当日のリリアーナ嬢の履物も調べましょうか」
「ええ、ぜひ」
私は立ち上がる。階段から落ちるには条件がいる。
転ぶ理由、勢いや物理的要因。
それがなければ――
残るのは、意図。
泣くのは簡単。でも証明は難しい
リリアーナは涙で物語を作った。
ならば私は、理で崩す。
三日。短いが、公爵家の使用人を使い、影で調査をするには十分だ。
学院に戻るその日、私はただの悪役令嬢ではない。
事実を携えた公爵令嬢として立つ。
私の青い瞳に断固とした光が宿る。
まだ物語前だ。いくらでも、どうにでもしてやる。
涙の舞台に上がる前に、私は裏から舞台装置を調べる。
報告は二日後に揃った。
私は執務室の机に並べられた書類を、指先で静かに押さえる。セバスの声はいつも通り淡々としていた。