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異世界転生悪役令嬢だと思ったら、本当の悪女はヒロインだった

第8章 令嬢は静かに分析する 後編


「階段に破損はございません」

 
「絨毯の繊維も摩耗は少なく、滑りやすい要因は確認できず」

 
「手すりの高さは成人女性の腰上。通常の歩行で転落する可能性は低いかと」

 
私は視線を落としたまま、ゆっくりと内容を追う。
つまり――自ら体勢を崩さなければ、落ちにくい。
事故だった、と断じることはできない。
でも、“事故だった”と胸を張って言える材料もない。

次は、心理。

物語は物理だけでは動かない。
動かすのは人。
私は目を閉じ、彼の姿を思い浮かべる。
――アルベルト。
王太子であり、学院の象徴、そしてこの物語の中心人物。
私は、ゲーム越しに彼を何度も見てきた。
正義感が強く弱者を放っておけない。公平であろうとする
人物だ。
でも彼には弱点がある。それは長所とも言うべき点だが彼の"弱者を放っておけない"つまりは、"弱身を見せる相手には強気になれない感情型"ということだ。
感情に揺れる。

彼は悪人じゃない…

むしろ誠実だ。だからこそ厄介。
彼は理屈よりも“構図”を見てしまう。
階段下で震える少女。庇うように立つ彼。
遠巻きに佇む、無表情な公爵令嬢。
あまりにも完成された一枚絵。
――ゲームのイベントスチルみたいに。
 
彼は“物語”に弱い
 
私はゆっくり瞳を開いた。
リリアーナは、そこを突いている。
平民出身で、貴族社会で孤立。健気。そして――涙。
守られるための要素が、すべて揃っている。
対して私は、公爵令嬢。
無表情で理知的。近寄り難い。――完璧な悪役。
弱者と強者。涙と沈黙。柔らかさと冷たさ。

 
「……なるほど。構図が美しいわね」

 
思わず口からこぼれた。
セバスがわずかに視線を上げるのが分かる。
でも私は、机に指先を軽く叩きながら考える。
美しすぎる構図には、欠点がある。

整いすぎている

偶然が続きすぎている。

第一発見者が彼。証拠は残らない。訴えは感情のみ。
物語としては満点。
でも現実は、こんなに綺麗じゃない。
人はもっと不器用で、曖昧で、雑だ。
完璧な被害者像は、どこか作り物の匂いがする。

 
「セバス」
 

「はい」

 
「リリアーナ嬢は、私と二人きりの場で怯えた様子はありましたか」

 
「いいえ。そのような報告はございません」

 
――やっぱり。

私は小さく息を吐く。

恐怖は、観客の前でのみ発動する
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